公開学習会「医療のゆくえ」
7月25日(水)、今回初めて、政務調査費を活用し、今日多くの市民が関心を持っている医療問題をテーマに公開学習会を開催しました。銭座コミュニティセンターには30人を超える市民が参加し、終始熱心に講演に聞き入っていました。
講師の三原茂先生は整形外科医で長崎市民病院の院長も歴任された方で、医師としての専門分野でのご活躍は勿論ですが、今日の我国の医療全体の現状を憂慮される先生は、長年の研究の成果による幅広い視野からの約1時間半にわたり貴重なお話をしていただきました。
以下、先生ご自身がまとめられた講演要旨を掲載致します。
「医療のゆくえ」1 イギリスの医療政策の失敗に学ぶ
イギリスは戦後(第2次世界大戦)「ゆりかごから墓場まで」といわれた医療福祉制度を作り上げ世界の注目をひいた。1960年代後半から医療費抑制政策が進められた。サッチャー首相は市場原理主義に共鳴し、医療費・教育費の抑制を行った。これに反発した優秀な医師や頭脳の多くが海外に流出、医療の荒廃を招くことになった。
いきおい、外国人の医療従事者に頼らざるを得なくなった。90年代後半に登場したブレア首相は、5ヵ年計画で医療費を1,5倍増(GDP比7,7%から目標10%に。ちなみにこの時期日本は7,9%であった)で体制の立て直しをはかったが、いったん壊れた制度も人心も容易にかってのように改善することは無かったという。6月末のイギリスで発生したテロ事件でのイラク人医師等の逮捕の背景には、このようなイギリスの医療政策があるように思う。
2 日本の現状 特に地域医療は
「医療崩壊」の危機にあるとは言えないが、しかし医療の現実は深刻さを増している。
(1)医療費抑制
(2)医師不足(特に病院勤務医の不足)
(3)国民の過度な安全要求が医療裁判の増加を招き、医療関係者が萎縮し、立ち去り型サボタージュ(勤務医から開業医へ)へa.医療費抑制について
日本の医療費は、GDP比7,9%でOECD加盟国の中でも第17位にある。決して高いものではない。経済は世界第2位というにもかかわらずである。1983年当時の厚生省高官が発表した「医療亡国論」が1人歩きして医療費抑制政策に続いている。しかし厚労省が発表する国民医療費の予測は常に過大で、修正を余儀なくされている。本来良質な医療を行うためには、お金が必要であることを無視した財政再建優先の政策の誤りである。ちなみに、国民医療費30兆円に対し国民年金44兆円、パチンコ産業30兆円の数字を国民はどう見るかである。b.医師不足も、つまるところは政策の誤りではないか
WHOの報告を見ると(2006年)、人口10万人当たりの医師数は日本198人で、なんと世界63位という貧弱さである。看護師27位、歯科医師28位というのも情けない順位というべきである。戦後の医師養成数は46校で2,900人の入学定員であった。一県一医大となり、80校8,280人となった(1975年)が、早くも第2次臨調の答申(1981年)を受けて医師養成数の削減が始まった。1993年には入学定員が7%減の7,725人となった。諸外国に比し総医師数にして61,000人不足という試算すらある。c.国民の医療に対する過度ともいえる安全願望は、医療裁判の増加を招き、現場の萎縮医療をもたらすと共に、産科・小児科・麻酔科等過酷な労働を余儀なくされる科の医師の減少を来たす結果となりつつある。また過労な勤務となりやすい病院医師を辞め、開業に走る趨勢も生まれつつある(立ち去り型サボタージュ)。
3 医療費抑制の政策
a.2006年4月の診療報酬改定
実質マイナス3,16%の改定は経営困難、労働条件の悪化をもたらす
リハビリ日数上限の設定は、現場の混乱、医療難民を続出b.2006年6月の医療保険制度改革法の内容
高齢者の負担増は、弱者切捨てにつながる
混合診療の導入は、格差医療をもたらす
療養病床削減計画は、医療難民の出現を懸念させる
後期高齢者の医療保険制度設立は、高齢者財政破綻につながる
地方自治体の負担増は、格差社会の出現につながる4 これからどうする?
a.国民の意思を明確に訴える。皆でワイワイして行動を起こす運動の展開が必要である。実際、過去にも例えば、BCG接種、ポリオワクチン輸入、エイズ渦等の運動による医療政策の変更を実現させた事例がある。これまでの日本の医療が低負担、高医療であったが、改革の方向は、高負担、低医療の内容ではないか。国民が目指すのは、高負担、高医療である。この、高負担というのは、近年減らしつつある国や事業主の負担を今一度増やすということである。現在の医療財源は、公費33%、保険料(事業主22%、被保険者30%)自己負担15%である。
b.貧富の差がなく、フリーアクセス可能な日本の医療保険制度を維持する努力を国と国民と一緒になって続けなければいけない。
c.国民運動の展開によっては、法案廃止、予算化阻止も不可能ではない。
